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完治

途方にくれてしまった私に、先生が「これを試してみますか?」と一台の卓上機械を持って来てくれました。

それは接骨院などでも使われているような、赤外線のレーザー治療器でした。

 

「あたたかい赤外線を口の炎症が酷い箇所に、外側からスポット照射します。一か所数秒をちょっとずつずらしながら、片側5分ずつ合計10分間。一か所に長くはやらないで下さい。熱くなって痛がりますから。」

 

今までの治療から比べたら、地味で正直「効くのかな?」と思ったのが第一印象でした。

けれど、藁をもすがる気持ちで、一日おきに病院に連れて行くことにしました。

その頃のうめは私にベッタリだったので、前に抱きかかえられるタイプのキャリーを買って、移動時に必ず顔が見えるようにして、バスを乗り継いで通いました。

うめは診察台の上で、驚くほど大人しく、微動だにせずに赤外線照射を受けてくれます。

そのうち、院長先生の計らいで、ありがたいことにこの治療器を貸し出してくれることになりました。

 

「精密機器で非常に高価なので、慎重に扱って下さい」と先生。

 

本来なら、貸出したくないでしょうに、うめの為に貸し出して下さった先生にとても感謝しました。

一日おきにきっかり10分間。うめの長いレーザー治療生活が始まりました。

すぐに効果なんか出ないのはわかっていたので、サプリメントの併用はもちろん、痛がってご飯を食べられない時は痛み止めにメタカムも使っていました。

時間がかかる治療法だから、根気よく続けよう。もう、他に方法は無いのだから。

 

その頃、東日本大震災が起こり、私達夫婦は平日は遅くまで仕事、週末は福島に行く生活が続きました。その間も、うめの赤外線治療は止めることなく、続けました。

眠くて眠くて、照射している私が眠ってしまい、気が付くと目の前でうめがずっと座って待っていたなんてこともありました。動かずにジッと私を見つめるうめは、優しい顔をしていました。

あまりに忙しい毎日で、うめの口の中をチェックすることも忘れていたある日のことです。

うめはご飯を食べた後、かならず痛みから口をペチャペチャするのですが、その仕草が無かったので「珍しいなぁ」と不思議に思いつつ過ごしていました。

数日後、定期検査で病院にうめを連れて行った時のことです。

「最近、あまり痛がらないんです」

先生が口の中を除くと

「歯茎が白~くなってますよ!」

「ほんとですか!」

覗き込んで驚きました。

なんと、うめの口の中は、喉の奥まで続くどす黒い歯茎の部分が薄いピンク色になっていたのです。ちょっと前に見た時は、まだまだ真っ赤だったのに…!

 

人間の医者をやっている友人に、以前この治療法の話をした時に言われた言葉を思い出しました。

 

「赤外線でウィルスを殺していき、その猫が体力がついて免疫力があがり、ウィルスが増殖するのを自分の免疫で抑えることができるようになったら、もしかしたら治るかもしれない」

 

10か月。

赤外線治療に要した時間です。でも、良くなるのは、あっという間でした。

あんなに痛がって、飛び上がって、歯茎を切り裂いていたうめの口内炎が治ったのです。

もうなんでも食べられるし、痛くて眠れなくなることもないんです。

衰弱して死んでいかなくていいんです。

 

奇跡だと思いました。

何より、この10か月の赤外線治療を、うめが一度も嫌がることなく、10分間も長い間、じっと座って照射されるのを我慢したこと。

動物は言葉がわからないから、時に人間が良かれと思ってやっていることも拒んだりしますが、この時のうめは治療してもらっているのがわかっていたのかなとさえ思いました。

それから口内炎が再発することはなく、痛み止めもサプリメントも治療も何も必要なくなりました。病院に行くのは、毎年の定期健診の時だけです。

うめは体重も増えてでっぷりして、普通の家猫と同じ幸せな毎日を送りました。

 

<つづく>

こんな顔して、ジッと座って赤外線レーザー治療を受けてくれていました。

お口が治って、ぐっすり眠るうめ。

食べられなくてひもじかったから、反動で太り過ぎて、オス猫より体重が多かった時もありました。